コーチング 入門

1.コーチングは勉強ではなく習慣

 コーチングスキルを身につけたかったら、英語の学習に置き換えるとわかりやすいと思います。いくら語彙を記憶しても、どんなにテキストを読み込んでも、なかなか話せるようになりません。
 しかし一ヶ月でもいいから、"真剣に"語学留学すると見違えるほど上達して帰ってくる人がいます。これは現地での日常生活が、そのまま学習機会になっているからです。

 コーチングもコミュニケーションですから、同じように考えればいいのです。「拡大質問とは?」、「相手を承認するってどういうこと?」などと頭の中で考えず、スキルを日常会話に投入するのが一番です。
 もちろん何の予備知識もないままでは試しようがありません。ですから初歩的なトレーニングは必要ですが、その後は実践を心がけてください。日常の中での実践があると、体系的なコーチングプログラム受講の効果が飛躍的に上がります。

 習慣化することで、コーチングスキル習得の速度は間違いなくアップします。しかし組織全体として成果を上げるには、個人レベルの上達だけでは不十分です。そこで次に、組織のコミュニケーションを再構築していく上で、コーチングとともに欠かせないもう一つのアプローチを見ていきましょう。

 2.コーチングを起点にしたアクションラーニング

 アクションラーニングとは、実務の中で関係するメンバーがディスカッションをして、問題解決や目標達成に向けた答えを見出し、新たな行動を起こしていくためのコミュニケーション手法です。はっきりした定義はありませんが、「仕事に直結する学習の場」と言ってもよいでしょう。

 アクションラーニングの考え方は、本質的にコーチングと非常に近いものです。コーチングが個人の気づきを促すものであるのに対し、アクションラーニングはチーム全体の気づきを促すもの。そんな区別もできると思います。

 私はこれまで、アクションラーニングを一種の「グループコーチング」という位置づけで、さまざまな企業でスタッフと共に実践してきました。そこでの私の役割は、議論の焦点を明確にしたり、議論が活性化するような投げかけをしたり、話が脇道にそれそうになったときに軌道修正するなど、まさにラーニングを進みやすくするサポートです。これは昨今、よく「ファシリテーター」と呼ばれる役割です。

 アクションラーニングで成果を上げるには、上下関係や利害を超えて、双方向のコミュニケーションを続けるマインドとスキルが欠かせません。コーチングのベーシックなトレーニングを受け、その価値を理解しているメンバーだと、この双方向のコミュニケーションを円滑に行うことができます。

 たとえば複数の拠点の店長に、マンツーマンのコーチングを実施しているとします。ここで店長はスタッフへの指導力を磨き、店全体のモチベーションを高めることにも成果を上げます。
 そして週一回、店長たちが本部に集まって互いの進捗や成果をシェアし、残された課題を明らかにします。そしてお互いがうまくいっているところ、誰かがうまく行き、他の店長は進んでいないところ、皆が困っている点などを明らかにします。そして知恵やノウハウを出し合い、さらなるステップに向けて現場に戻って行きます。

 まさに、これが一つのアクションラーニングです。「コーチング」という言葉を用いて説明するならば、お互いがコーチングマインドを持って必要な問いを投げかけ、意見や答えを出し合い、目的を共有するパワーミーティング。それがアクションラーニングだと私は考えています。
 
 アクションラーニングは、チームワークに秀でた日本の組織に向いている手法だと思います。図らずもアクションラーニングの権威である米ジョージ・ワシントン大学大学院のマイケル・マーコード教授が、興味ある発言を日経新聞に寄せていました。最後に、その点についてふれておきましょう

 3.成果主義から開花主義へ

 Mマーコード教授は、成果主義を是正する必要性を説いています。最近の研究によると、個人や部門に結果を求めるほど、実際に出る成果は小さくなるというのです。現段階では"一つの研究にもとづく仮説"くらいに受け止めておくほうがよいでしょう。しかし短期的な成果の追求が墓穴を掘る結果につながりやすいのは、さまざまな実例からも納得のいくところです。

 私は成果主義が悪いというよりは、スタッフを目先の点数稼ぎに奔走させてしまうような体制が問題なのだと考えます。
 コーチングの考え方には、継続的に成果を出すには個々人の力を引き出し、個々人が生き生きと活動できる環境づくりが不可欠・・・というものがあります。これは成果主義を否定するものではなく、真の成果を生み出すための開花主義、一人ひとりに内在する可能性というオリジナルの花を咲かせる風土、そして仕組みに目を向けた考え方です。

 成果主義は自ずと緊張感をもたらします。それが前進力を生み出すか摩擦を生み出すかは、対話の双方向性と納得のレベルに大きく影響されます。さいきん取り上げられている成果主義の失敗事例などは、まさに成果追求が一方的な押し付けになっていて、現場を担うメンバーの納得性が得られていない結果です。
 事業体として必要な緊張感を共有しつつ、高い当事者意識とコミットメントをつくり出すには、現場を担うメンバーが「自分たちで決めて自ら行動する」流れにしていくことが大事です。その起点になるのがコーチングであり、点と点をつなげてチーム全体の前進力を生み出すのがアクションラーニングだと言えるでしょう。

 個に対するコーチングとチームのアクションラーニング。これを現場に組み込むことで、成果を出すためのプロセスに人材育成、チーム開発への効果性が生まれてきます。こうして開花主義を土台にした、真の成果をつくる土壌を育んで行きたいと思います。